ウインチに必要な資格とは?特別教育の内容や免除される資格まで解説

動力式ウインチを操作するには、法律により「巻上げ機運転業務特別教育」の受講が義務付けられています。ウインチは、動力を用いて重量物の吊り上げやけん引をおこなう便利な機械ですが、一歩間違えれば重大な事故につながる危険性もはらんでいるため、正しく使用することが重要です。

本記事では、講習内容や対象者、受講方法から関連資格との違いまでまとめました。「安全に作業を進めたい」とお考えの方は、ぜひご覧ください。

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動力式ウインチの操作には「巻上げ機運転業務特別教育」が必要

動力式のウインチを使用する際は、サイズや吊り上げる荷物の重さにかかわらず「巻上げ機運転業務特別教育」の受講が必要です。これは、「労働安全衛生法第59条」および「労働安全衛生規則第36条第11号」で定められており、すべての作業者が受講しなければなりません。

重量物を扱うウインチ作業は、操作ミスや点検不足があると「荷物の落下」や「作業者の巻き込み」などの重大事故に直結しやすい作業です。実際に、以下のような労働災害の事例も報告されています。

【死亡事故につながった事例】

  1. 森林内で伐採した木材を集めて運搬する作業車を使用中に、ウインチに巻き込まれ死亡
  2. ブルドーザー後部のウインチでワイヤロープを交換していたところ、巻き込まれて死亡
  3. 温泉の掘削作業中、ロッド(掘削用の管)を吊り上げるウインチに巻き込まれて死亡

このような事故を防ぐためには、操作手順だけでなく、ウインチの構造、安全装置の役割、点検項目、異常時の対応などを理解しておくことが欠かせません。こうした知識や技術を身につけ作業者の安全を確保するために、「巻上げ機運転業務特別教育」が設けられています。

ウインチの種類や仕組みについては、以下に詳しくまとめてあります。あわせてご覧ください。

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1.ウインチ・ホイスト・ゴンドラの操作に必要な講習

重量物の吊り上げ作業に使われる機械にはさまざまな種類があり、それぞれ用途や構造が異なるため、法令上は別の機械として分類し必要な資格や講習を定めています。以下に、「ウインチ」「ホイスト」「ゴンドラ用巻上げ機」 に必要な講習を整理しました。

機材名 必要な資格や講習
動力式ウインチ
(例:定置型ウィンチ100V
サイズにかかわらず「巻上げ機運転業務特別教育」が必要
手動式ウインチ
(例:万能携帯ウインチ チルホール
手動式なので「巻上げ機運転業務特別教育」は不要
電気ホイスト・エアーホイスト
(例:ベビーホイスト
「巻上げ機」に該当しない(安衛則第36条第11号の除外対象)ため「巻上げ機運転業務特別教育」は不要
※クレーンに備え付けられている場合は、別途「クレーン特別教育」や「クレーン運転士免許」が必要
ゴンドラ用巻上げ機 「ゴンドラ取扱い業務特別教育」が必要

ほかにも、トラックや建設機械の一部に荷物を固定するためのウインチが付いていることがあります。この場合は、重量物を吊り上げることを目的としていないため、「巻上げ機運転業務特別教育」の対象外となる場合があります。

一方、動力を使ってワイヤーロープを巻き取ったり、荷物を動かしたりする場合は、「動力で駆動する巻上げ機」とみなされるため、特別教育が必要です。また、法令上は「何kg以上でなければならない」という荷重の制限がないため、小型ウインチであっても動力式であれば特別教育の対象となります。

2.特別教育を受けずに動力式ウインチを操作した場合の罰則

「巻上げ機運転業務特別教育」を受けずに動力式のウインチを操作すると、作業者は事故に巻き込まれる恐れがあり危険です。そのため、事業者は労働安全衛生法違反として罰金が科される可能性があります。

作業中に労災が起きた場合、「事前に特別教育を受講させていたかどうか」で事業者の責任の重さが異なります。

項目 教育を実施した場合 教育を実施しなかった場合
刑事上の責任 違反なし
  • 6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金の可能性がある
  • 労働者を死傷させた場合、業務上過失致死傷罪(刑法第211条)に問われることがある
民事上の責任 事故等があった場合、安全配慮を果たしていたとみなされ、賠償責任を軽減されるケースがある
  • 「安全配慮義務違反」と認定されると、労災保険給付を超えて、民事上の損害賠償責任を負う可能性が高い
補償上の責任 労災保険給付は通常どおり支給される
  • 労災は支給されるが、重大災害の場合は事業者の責任追及(送検・刑事訴追)の可能性がある
行政上の対応 問題なし
  • 労働基準監督署からの是正勧告・送検の対象となる場合がある

参考:厚生労働省

高額な賠償や罰則リスクだけでなく、「安全管理ができていない事業者」という評価を受け、社会的な信頼を失う恐れもあります。万が一作業者が死傷した場合には、より重い責任を問われることになりかねません。

何よりも作業者の命と健康を守ることは事業者の重要な責任であるため、すべての作業者に対して受講を徹底しましょう。

巻上げ機運転業務特別教育の概要

ここでは「巻上げ機運転業務特別教育」の目的や具体的な内容、受講方法について解説します。

では、順番に見ていきましょう。

1.目的と対象者

まずウインチが必要な作業とは、具体的に以下のような作業を指します。

【ウインチが必要な作業例】

  • 建設現場:建築資材や鉄塔などの重量のある荷材、機材の吊り上げ・吊り下げ
  • 製造工場:工場内での機械部品や完成品の吊り上げ、けん引
  • 高所作業:機材や資材の吊り上げ
  • 港湾:コンテナや大型貨物の吊り上げ、貨物の積み降ろし
  • 鉱山・採石場:重機や資材の移動
  • 船舶・航空機の整備:機材の吊り上げ、取り付け

同じ吊り上げ作業でも、ウインチではなくクレーンやホイストを使用する場合は、それぞれ別の資格や講習が必要です。そのうえで、以下のとおり目的・対象者・受講資格が定められています。

項目 概要
目的 作業者がウインチの構造・操作方法・点検項目を理解し、安全に作業をおこなえるようにすること
対象者 動力で動く巻上げ機(電気ホイスト、エアーホイストおよびゴンドラ用巻上げ機は対象外)を操作する仕事をしている者
受講資格 満18歳以上(年少者労働基準規則により、18歳未満は巻上げ機の運転の業務ができません)

2.講習内容と所要時間(学科・実技)

特別教育は、知識を学ぶ「学科」と、実際にウインチを操作する「実技」の受講が義務付けられています。

▼「学科」の内容と所要時間

科目 範囲 所要時間
巻上げ機に関する知識 巻上げ機(安衛則第36条第11号の機械をいう。以下同じ)の原動機、ブレーキ、クラッチ、巻胴、逆転防止装置、動力伝達装置、電気装置、信号装置、連結器材、安全装置、各種計器および巻上用ワイヤロープの構造および取扱いの方法 巻上げ機の据付方法 3時間
巻上げ機の運転に必要な一般的事項に関する知識 合図方法、荷掛方法、連結方法、点検方法 2時間
関係法令 法令および安衛則中の関係条項 1時間

なお、以下の講習をすでに受講している場合は、学科の一部の科目が免除されるケースがあります。

  • 小型移動式クレーン運転技能講習
  • 床上操作式クレーン運転技能講習
  • 玉掛け技能講習

免除の詳細については、受講を希望する教育機関に事前に確認してください。

また、実技では学科で学んだ知識をもとに、実際にウインチを使って操作方法や異常時・緊急時の対応を学びます。

▼「実技」の内容と所要時間

科目 範囲 所要時間
巻上げ機の運転 荷の巻上げおよび巻卸し 3時間
荷かけおよび合図 荷の種類に応じた荷かけ、手、小旗等を用いておこなう合図 1時間

実技を修了すると、日本全国で有効な「特別教育修了証」が発行され、動力式ウインチを使った作業ができるようになります。

参考:厚生労働省

3.受講方法と費用の目安

最後に、受講方法と費用の目安を見ていきましょう。巻上げ機運転業務特別教育は、以下のような教育機関で受講します。

【受講できる機関】

  • 全国各地の都道府県労働局長の登録を受けた教習機関
  • 建設業労働災害防止協会(建災防)の支部
  • 民間の研修機関

教育機関によっては、「学科のみのクラス」と「学科と実技の両方をおこなうクラス」があります。受講を申し込む前に、どちらのクラスかを必ず確認しましょう。

受講方法は以下のとおりです。

【受講方法】

  • 学科:対面またはオンライン(eラーニング)で受講
  • 実技:対面での受講のみ

学科は対面での講習だけでなく、厚生労働省のガイドラインにもとづいたオンライン(eラーニング)での受講も認められています。オンラインは、時間や場所を問わず自分のペースで学習できるのがメリットです。

実技講習を受ける際は、講師と受講者が同じ施設で実際にウインチを操作する必要があるため、対面で実施されます。講師には、各事業所で十分な知識と経験を持つ「実技実施責任者」が選任されます。また、実技終了後は、実施報告書の提出が必要です。

特別教育にかかる費用の目安は以下のとおりです。

【費用の目安】

  • 学科+実技で2万円程度〜
    ※受講費用は教育機関によって異なります。詳しくは各教育機関にお問い合わせください。

なお、厚生労働省の「人材開発支援助成金」の対象となる場合があります。助成金申請の相談はレントでも受け付けておりますので、以下から詳細をご覧ください。

人材開発支援助成金の詳細を見る

吊り上げ・かけ外し作業に必要なその他の資格

ウインチを使った作業では、荷物をフックに掛けたり外したりする「玉掛け作業」や、クレーン操作をともなうことがあります。これらはウインチ作業と混同されやすいですが、それぞれ必要な資格や講習は異なります。

以下に、作業ごとに必要な資格・講習を整理しました。

作業内容 必要な資格・講習 説明
クレーンを使用した吊り上げ作業 クレーン運転特別教育(5t未満) 吊り上げ荷重5t未満のクレーンでの吊り上げ・資材移動などの作業に必要な講習
クレーン・デリック運転士免許(限定なし) すべてのクレーンとデリックを運転できる国家資格
クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定) 吊り上げ荷重が5t以上の固定式クレーンを運転するための国家資格
移動式クレーン操作 移動式クレーン特別教育 吊り上げ荷重が1t未満の移動式クレーン等の運転に必要な講習
小型移動式クレーン運転技能講習(1t以上5t未満) 吊り上げ荷重1t以上5t未満の移動式クレーンの運転に必要な講習
移動式クレーン運転士免許(5t以上) 吊り上げ荷重が5t以上の移動式クレーンを運転できる国家資格
玉掛け作業 玉掛け特別教育(1t未満) 吊り上げ荷重が1t未満の玉掛け作業に必要な講習
玉掛け技能講習(1t以上) 吊り上げ荷重が1t以上の玉掛け作業に必要な講習

※公道を走る場合は、車両の大きさに応じた自動車運転免許証が別途必要です。

同じ現場では、ウインチ操作と玉掛け作業をおこなうことも珍しくありません。ウインチの操作担当者が玉掛け作業も兼任したい場合は、「巻上げ機運転業務特別教育」に加えて、「玉掛け作業」の講習も受ける必要があります。

両方の知識と技術を身につけることで、より安全に作業を進められます。

レントでも、クレーン操作・玉掛け作業に必要な特別教育技能講習を実施しています。お問い合わせ・お申し込みは、以下からお気軽にご連絡ください。
【お問い合わせ先 レント教習センター TEL:054-265-2320
クレーン車の運転に必要な免許・資格については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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巻上げ機運転業務特別教育を受講してウインチを安全に操作しよう

動力式ウインチの操作には、大きさにかかわらず「巻上げ機運転業務特別教育」の受講が法律で義務付けられています。重大な事故を防ぐためにも、ウインチの構造や危険性を正しく理解し、安全な操作方法や異常時の対処法を身につけておきましょう。

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