高所作業車を使った作業では、墜落や転倒といった重大事故が後を絶ちません。高い場所での作業は常に危険と隣り合わせで、ひとつの油断が命にかかわる事態を招きます。
本記事では、高所作業車で実際に起きた事故の事例を、原因と対策をあわせて紹介します。現場の安全管理を見直すきっかけとして、参考になれば幸いです。
産業・建設機械のレンタル会社「レント」では、高所作業車のレンタルに加えて、安全対策商品をご用意しています。現場の状況に合わせてご提案も可能ですので、まずは以下からお気軽にご相談ください。
高所作業車の事故は深刻な事態につながりやすい
令和6年に厚生労働省が公表したデータによると、建設業における死亡災害は232人にのぼり、全産業のなかで最も多い数字となっています。

参考:「令和6年 労働災害発生状況について|厚生労働省」をもとに作成
建設業の死亡災害(232人)のうち、墜落・転落による死亡者数は77人で、建設業の死亡災害全体の約3割を占めています。

参考:「令和6年における労働災害発生状況(確定値)|厚生労働省」をもとに作成
高所作業車は高い場所で作業をおこなう機械であるため、一度墜落や転落が起きると地上まで落下する距離が長く、重傷や死亡につながりやすいのが実情です。このような状況を踏まえ、国も墜落・転落災害の防止を重要課題として捉え、安全対策の強化を進めています。
では実際にどのような事故が発生しているのでしょうか。ここからは、高所作業車で発生したよくある事例を紹介します。
【事例1】墜落・転落

墜落・転落は、高所作業車による労働災害のなかで最も件数の多い事故です。以下では、実際に発生した2件の事例を取り上げます。
1.外板の塗装中、地上10mから墜落して死亡

| 業種 | 造船業 |
| 事業場規模 | 1~4人 |
| 機械設備・有害物質の種類(起因物) | クレーン |
| 災害の種類(事故の型) | 墜落、転落 |
| 被害者数 |
|
| 発生要因(物) | 作業箇所の間隔空間の不足 |
| 発生要因(人) | 危険感覚 |
| 発生要因(管理) | 合図、確認なしに車を動かす |
まずは、外板の塗装中、地上10mから墜落して死亡した事例です。作業員が、高所作業車を使って造船所で船体の外板を塗装していた際、別の作業員が移動させたクレーンが高所作業車に接触し、その衝撃で作業員が地上約10mの高さから墜落して亡くなりました。
【墜落事故が起きた原因】
- 高所作業車が立入禁止エリアで作業していた
- 他作業で移動させたクレーンが高所作業車へ接触した
- 被災者は、墜落制止用器具(安全帯)を着けていなかった
- 高所作業車を操作していたのは無資格者だった
このような事故を防ぐには、複数の作業が同じ場所でおこなわれる際、関係者全員が事前に作業手順や動線を確認し合うことが重要です。立入禁止エリアは看板だけでなくロープを張るなどして明確にし、やむをえずそのエリアで作業する場合は見張り役を配置しましょう。
【事故防止の対策】
当然ながら、高所作業車の運転は技能講習を修了した者がおこなうことが原則です。さらに、作業床で作業する作業員には、法律に従いフルハーネス型の墜落制止用器具の着用を徹底します。

出典:厚生労働省
このような安全教育は、元請け・下請けを問わずすべての作業員に実施することで事故防止に一層つながります。
【お問い合せ先 レント教習センター TEL:054-265-2320】
2.油圧シリンダーが破損しバケットから墜落

| 業種 | 電気通信工事業 |
| 事業場規模 | 30~99人 |
| 機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高所作業車 |
| 災害の種類(事故の型) | 墜落、転落 |
| 被害者数 |
|
| 発生要因(物) | 組立、工作の欠陥 |
| 発生要因(人) | - |
| 発生要因(管理) | - |
次に紹介するのは、電柱のバインド線を取り替える工事中に発生した事故です。作業員が高所作業車で作業中、油圧シリンダー部分が突然壊れてバケットが急に下がり、作業員がアスファルトの路面に落ちました。
【バケットから墜落した原因】
- 溶接が不十分で部品が突然壊れた
- 法定の年次検査や月次検査、作業前点検をおこなっていなかった
- 墜落制止用器具を正しく使用していなかった
- 危険予知訓練で対策を挙げたが実行していなかった
今回の事故は、機械の溶接が不十分だったことに加え、法定の点検をおこなっていなかったことが原因です。定期的な検査を怠ると、亀裂や損傷を見逃してしまいます。
【事故防止の対策】
高所作業車は高い場所で使用するため、万が一、機械が破損すると重大な事故につながります。機械の破損を防ぐには、以下のような点検を確実に実施することが重要です。
- 作業前点検
- 月次検査
- 年次検査
もし自社での点検が難しい場合は、レンタルサービスの活用がおすすめです。レントでは専門スタッフが整備をするだけでなく、貸し出し前にも点検をおこなっておりますので、機械の不具合による事故リスクを減らしたい場合は、レンタルの活用もご検討ください。
【事例2】はさまれ・巻き込まれ

高所作業車の作業床と天井や梁との間にはさまれる事故も、重大災害の1つです。作業床の上昇中に周囲の障害物を見落とすことで発生しやすく、死亡事故につながるケースも少なくありません。
1.天井の点検口で首をはさまれ死亡

| 業種 | 電気通信工事業 |
| 事業場規模 | 5~15人 |
| 機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高所作業車 |
| 災害の種類(事故の型) | はさまれ、巻き込まれ |
| 被害者数 |
|
| 発生要因(物) | 作業箇所の間隔空間の不足 |
| 発生要因(人) | 危険感覚 |
| 発生要因(管理) | 機械装置を不意に動かす |
ここで紹介するのは、工場の新築現場で電気工事中、作業員が高所作業車の手すりと天井の点検口フレームに首をはさまれて亡くなった事例です。
【首をはさまれ死亡した原因】
- 技術や知識が不十分ななか、高所作業車の運転操作を行っていた
- 作業指揮者が不在で、運転操作を誰もチェックしていなかった
作業時には場所に合った高所作業車を選び、作業計画を立てることが重要です。作業指揮者を配置し、高所作業車運転技能講習修了者または特別教育を受けた者を就業させましょう。
【事故防止の対策】
思わぬはさまれ事故を防ぐためには、現場に応じた安全装置の設置が有効です。具体的な対策として、バケットの端に単管パイプや高所作業接触事故防止具を以下のように設置して、稼働範囲を物理的に制限する方法があります。

しかし、天井は平面とは限りません。現場によっては凹凸やドーム型などさまざまな形状の屋根があります。そのような複雑な形状の場合は、障害物を非接触で検知する下記の上部検知警告センサーがおすすめです。

これらの防止具とセンサーを天井の形状に合わせて使い分けることで、はさまれ事故のリスクを減らせます。
2.移動中に梁とバスケットの間にはさまれ死亡

| 業種 | 鉄骨・鉄筋コンクリート造家屋建築工事業 |
| 事業場規模 | ー |
| 機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高所作業車 |
| 災害の種類(事故の型) | はさまれ、巻き込まれ |
| 被害者数 |
|
| 発生要因(物) | ー |
| 発生要因(人) | ー |
| 発生要因(管理) | ー |
続いて紹介するのは、住宅の新築現場で梁に安全ネットを張る作業中に起こった事故です。作業員が高所作業車に乗ったまま移動しようと後進したところ、梁とバスケットの間に身体がはさまれて亡くなりました。事故の主な原因は、以下のとおりです。
【梁とバスケットの間にはさまれた原因】
- 高所作業車を用いた作業計画が作成されていなかった
- ブームを下げずに作業状態のまま走行した
- 走行経路の地盤に起伏があり、バスケットが上がった
- 1人で作業しており、ほかの作業員は離れた場所にいた
バスケットに乗って移動する際は、走行場所の地形や状況を確認し、ブームを下げて走行しましょう。走行路の地盤は平らで固い状態に整備しておくことも必要です。
今回は、作業位置が梁に近い危険な高さだったため、わずかな起伏でバスケットが上がり挟まれました。センサーがあれば、移動前に危険な高さで作業していることに気づけた可能性があります。
【事故防止の対策】
移動中のはさまれ事故を防ぐには、危険エリアへの進入を事前に検知する仕組みが重要です。例えば、レーザーエリアシステムは、水平方向にレーザー光を照射してバリアを設定し、エリア内に進入した物体を検知します。

一方、検知警報システム レーザーカーテンは、四角形の検知エリアを自由に設定できます。障害物を避けて検知エリアを自動設定でき、複雑な現場環境でも柔軟に対応可能です。

いずれも音や光で危険を知らせてくれるため、作業員が危険に気づく前に警告を発し、はさまれ事故を防げます。
【事例3】転倒

高所作業車の転倒事故は、アウトリガーの設置不良や地盤の状態が原因で発生するケースが多くあります。車両ごと転倒すると作業員が地面に叩きつけられるため、死亡事故につながりやすいのが特徴です。
1.アウトリガーの設置が不適切で転倒

| 業種 | 電気通信工事業 |
| 事業場規模 | ー |
| 機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高所作業車 |
| 災害の種類(事故の型) | 転倒 |
| 被害者数 |
|
| 発生要因(物) | ー |
| 発生要因(人) | ー |
| 発生要因(管理) | ー |
この事故では、作業員が堤防道路で高所作業車を使って電線の防護管を外していた最中に、車体が転倒して1人が亡くなりました。
【高所作業車が転倒した原因】
- アウトリガーのうち2つを未舗装の場所に設置した
- 後部のアウトリガーが十分に張り出されていなかった
- 前日まで雨が降って路肩が緩んでいたが、敷板などで沈み込みを防ぐ対策をしなかった
- 作業場所の状態や高所作業車の性能に合った作業計画を立てていなかった
今回の事故の原因は、アウトリガーの不適切な設置です。傾斜がある場所では、必ず前下がりに停めて駐車ブレーキをかけ、フットブレーキを外しても動かないことを確かめてください。
ジャッキは前から後ろの順番でセットします。駐車ブレーキは後輪にかかっているためです。アウトリガーが地面に接する部分には、敷板や敷角を使い、地盤の沈み込みを防ぐ対策を十分におこないましょう。
【事故防止の対策】
転倒事故の多くは、地盤状態の確認不足やアウトリガーの設置ミスが原因です。高所作業車が転倒すると、作業員が高い位置から地面に投げ出されてしまうので、以下の対策を徹底しましょう。
- 雨天後など地盤が緩んでいる場合は、敷板や敷角を使った養生をおこなう
- アウトリガーの適切な設置手順を守る
- 作業場所の状態や高所作業車の性能に合った作業計画を立てる
雨天後の地盤確認やアウトリガーの正しい設置を徹底することで、転倒事故を減らせます。
2.不整地での作業中に後方へ転倒し死亡

| 業種 | 建設業 |
| 事業場規模 | 1~4人 |
| 機械設備・有害物質の種類(起因物) | 乗物 |
| 災害の種類(事故の型) | 転倒 |
| 被害者数 |
|
| 発生要因(物) | 作業環境の欠陥 |
| 発生要因(人) | 職場的原因 |
| 発生要因(管理) | 危険な状態を作る |
ここで紹介するのは、不整地での作業中に後方へ転倒した事例です。作業員がクローラ式の高所作業車で大木の枝を切っていたところ、車両が後ろに倒れて地面にぶつかり亡くなる事故が発生しました。
【作業中に後方へ転倒した原因】
- 凸凹のある仮の通路で、傾斜もある不安定な場所だった
- 敷鉄板などで車体を安定させる対策をしていなかった
- 転倒の危険を知らせる警告音が鳴っていたが、使用を停止しなかった
- 無資格者が高所作業車の運転業務に就いていた
今回の現場は凸凹で傾斜もある不安定な場所でしたが、敷鉄板などで地盤を固める対策をとっていませんでした。さらに転倒を警告する音が鳴っていたにもかかわらず、作業を続けたことが直接の原因です。
不安定な地盤では、高所作業車の重心が少し移動しただけで転倒してしまいます。作業場所の状態や高所作業車の種類・能力に合った作業計画を立て、必ず有資格者が運転するようにしましょう。
【事故防止の対策】
不整地での転倒事故を防ぐには、以下の対応が重要です。
- 凸凹や傾斜がある場所では、敷鉄板などで地盤を固める
- 転倒警告音が鳴った際は、必ず作業を停止する
- 高所作業車は、有資格者が運転する
不整地では車体のバランスが崩れやすく、整地された場所に比べて転倒の予兆に気づきにくいです。高所作業車の転倒は死亡事故などの重大災害につながりやすいため、これらの対策を徹底しましょう。
【事例4】高所作業車を作業現場へ運搬中に衝突する

高所作業車を現場へ運ぶ途中や現場内で、トンネルや入口のゲートに車両をぶつける事故も起きています。車両の高さを正確に把握していなかったことが原因です。
例えば、夜間にショッピングセンターの照明を交換しに行く際、高所作業車がゲート入口にぶつかったケースがあります。運搬中であれば、走り出す前に車両の高さをきちんと把握しておきましょう。
【事故防止の対策】
衝突事故を防ぐには、「運搬時」と「現場内」それぞれに適した対策が必要です。運搬時は、走り出す前に車両の高さを正確に把握し、通過する経路の高さ制限を事前に確認しましょう。
現場内では、レーザーエリアシステムや検知警報システム レーザーカーテンを設置することで、音や光で危険を事前に知らせられます。

【事例5】作業中に工具が落下、ほかの作業員に当たる

バケット内での工具落下も深刻な問題です。作業員が手を滑らせたり容器をひっくり返したりして工具や道具を落とし、地上で作業している人にぶつかる事故が起きています。
【工具や道具が落ちる原因】
- 外したボルトを落としてしまった
- 作業中に手が滑り、工具を落としてしまった
- ボルトバッグをバケットのなかでひっくり返してしまった
- 釘が入った容器をひっくり返してしまった
工具や道具の落下を防ぐには、バケットを穴の開いていないタイプに変える方法があります。鉄製のバケットは網目状に穴が開いているため小さな物が隙間から落ちてしまいますが、樹脂製のバケットなら底が塞がっているので落下を防ぐことが可能です。
【事故防止の対策】
落下事故を防ぐ対策には、「落下防止ネットの設置」があります。例えば、高所作業車用落下物防止器具「eQネット」でバケットを以下のようにネットで覆い、工具や部品の落下を物理的に防ぎます。

これらの対策をおこなうことで、高所からの落下物による事故リスクを減らすことが可能です。
高所作業車の事故対策を強化して作業員の命を守ろう

高所作業車の事故は死亡事故につながる可能性が高く、不注意や技能不足、安全確保の不十分さなど複数の要因が合わさって発生します。品質を担保しつつ、計画どおりに仕事を進めるには作業員一人ひとりが安全意識を持ち、会社として安全対策を図るのが重要です。
産業・建設機械のレンタル会社「レント」では、高所作業車を豊富に取りそろえており案件に最適な車両を用意できます。また講習もおこなっているので、お気軽にご相談ください。
※事例1・2・3内に記載した事例や画像は「職場のあんぜんサイト|厚生労働省」をもとに作成しています。