株式会社Quantaris Lab(クオンタリス ラボ)
榎本 剛司氏(代表取締役)
静岡県立大学 食品栄養科学部 助教
徳村 雅弘氏
株式会社レント 新規事業開発部 デジタルマーケティング課
山内 真也氏(部長代理 兼 課長)
資源の少ない日本で、将来の循環型社会の実現に向けた産官学連携(企業・行政・教育機関が協力して研究開発や事業を行うこと)の取り組みが各地で進んでいます。静岡もその1つです。
静岡県立大学発ベンチャーの株式会社Quantaris Lab(クオンタリスラボ)は、下水汚泥から高品質な液体肥料を作る技術を開発中です。しかし、高額な設備投資や農業現場での運用体制構築など、開発を進める過程には多くのハードルがありました。そこに手を挙げたのが、建機レンタルを中心に事業を展開するレントです。
なぜ建設機材のレンタルに特化したレントと、農業分野での協業が実現したのか。クオンタリスラボの代表・榎本氏と静岡県立大学の徳村氏、レント新規事業開発部の山内氏に、技術の詳細から協業の背景、そして両社が描く循環型農業の未来まで詳しく聞きました。
「下水汚泥の肥料化」に立ちふさがる、数多くのハードル
――そもそも、なぜ今「下水汚泥の肥料化」が注目されているのでしょうか?

榎本氏(クオンタリスラボ):背景にあるのは、日本の化学肥料原料がほぼ100%輸入に頼っているという現実です。植物に必要な三大栄養素の原料である窒素・リン・カリウムはいずれも海外から輸入しており、肥料価格はこの十年で約二倍に高騰しています。
特にリン鉱石は埋蔵量に限りがあり、将来的な不足が指摘されています。しかも主要な産出国は中国やモロッコなど特定の国に偏っているため、輸出規制がかかれば日本の農業は一気に行き詰まる。これは食料安全保障に直結する問題なのです。
牛や豚など家畜の排泄物をリサイクルする方法もありますが、それだけでは足りません。結局、人が食べたものを肥料に戻すという発想が必要で、それが下水汚泥に行き着くわけです。
──「下水汚泥を肥料にする」という発想自体は昔からあったと思いますが、これまで世に広く普及しなかった理由や課題は何でしょうか?

徳村氏(静岡県立大学 食品栄養科学部 助教):課題は主に3つあります。まず安全性に関する課題。下水汚泥には医薬品や化粧品由来の化学物質、重金属なども含まれうるため、「本当に安全なのか」という不安が付きまといます。次に「誰がやるのか」という問題。肥料化には設備投資が必要ですが、その費用は高額で、大企業や自治体のような財力のある主体でなければ動かしにくい。
さらにもう1つ重要な点があります。下水汚泥の固形分を堆肥化する取り組みは以前からありましたが、私たちが着目しているのは「返流水(へんりゅうすい)」という、汚泥を脱水した際に出る液体の方なんです。この返流水を液体肥料にする技術や前例は、全国的にもほとんどありません。これが3つ目の課題です。

――その返流水は、一般的にはどう処理されるのですか?
徳村氏:下水処理場の入口に戻して、もう一度処理します。ただ、返流水は非常に濃い液体なので、戻すと処理場に大きな負荷がかかってしまうんですね。かといってそのまま河川に流すわけにもいきません。
しかし、濃いというのはつまり「いろいろなものが入っている」ということ。植物の成長に欠かせない窒素・リン・カリウムといった肥料成分も豊富に含まれているのです。私たちはこの返流水を肥料に変えることで、お金をかけて処理していたものを価値ある資源に転換する、つまりマイナスをプラスに変える挑戦をしています。
イメージは「金平糖をハンマーで砕く」。分解する技術で無臭・透明な液肥へ

――返流水にはいいものも悪いものも混ざった状態ですよね。クオンタリスラボの技術はどのようにして安全な液肥に変えるのでしょうか?
徳村氏:わかりやすく言うと、「金平糖をハンマーで粉々に砕く」イメージです。金平糖は固くてデコボコしていますよね。でも粉々に砕いてしまえばサラサラの粉になる。それと同じで、有害な化学物質の分子構造を試薬と光を使って細かく分解することで無害化を図るんです。分解が進むと最終的にはお酢の成分(酢酸)のような無害な物質に変わります。
――技術によって透明な液肥ができるというのは驚きです。色はどこへ行ってしまうのですか?
徳村氏:物質に色がついて見えるのは、分子がある程度つながっているからなんです。それをバラバラに分解すると光を吸収しなくなるので、透明になる。成分は中にちゃんと残っているのですが、目には見えなくなるんですね。

――開発中の液肥の特徴を教えてください。
徳村氏:大きな特徴は3つあります。まず、固形物がなくなるため配管やノズルが詰まりにくく、スプレー散布やチューブ施肥、ドローン散布に向いていること。
次に、透明でほとんど無臭なので、都市近郊や屋内栽培でも使いやすいこと。
そして3つ目が、九州大学の矢部先生の濃縮・分離技術と組み合わせることで、窒素・リン・カリウムを個別に分離・濃縮できること。これにより、作物や生育段階に応じた配合調整が可能になります。
たとえばイチゴは肥料の濃さや与え方で甘さのレベルが大きく変わります。静岡の名産品「石垣いちご」は濃厚な甘さで高級品として知られていますが、テスト栽培では、従来の化学肥料で育てた「石垣いちご」とほぼ同じ甘さを、液肥の配合により再現することに成功しています。

――実用化に向けた進捗や、クリアすべき課題はどのようなものですか?
榎本氏:現時点では事業化の検証段階で、本格的な商品化はこれからです。安全性のさらなる確認、実際の農家で同等品質の作物ができることの実証、プラント化した際にコストが採算に合うかの検証、量産と安定供給の体制づくりなど、一つひとつ積み重ねていく必要があります。
イチゴに加えて、枝豆やお茶など静岡県産の作物での栽培試験も予定しています。将来的には小型プラントでの実証を経て、本格プラントへの段階的な展開を想定しています。
再生プラスチック事業で築いた信頼が、液肥事業の協業へつながった
――レントとの協業はどのように始まったのでしょうか?
榎本氏:レントの山内さんとは、スタートアップ支援イベントの懇親会で出会いました。その時は再生プラスチックの分析事業に関する相談がきっかけだったのですが、お互いの会社が「循環型社会の実現」「サーキュラーエコノミー」という共通の理念を持っていることがわかり、協業が始まりました。
再生プラスチック事業での協業が先行して進む中で信頼関係が築かれ、「液肥事業でも社会実装に向けてレントさんの力を借りたい」と相談したのが、この協業の出発点です。

山内氏(レント):液肥事業では、プラントの導入から散布の現場まで、さまざまなフェーズでレントが関われると感じました。自治体や農家向けの小型プラントのレンタル、液肥散布に関わる機材や周辺機器の提供、将来的にはIoT機器を含めたスマート農業分野への展開も視野に入れています。
現在、液肥散布のためにドローン会社と具体的な打ち合わせを進めているところです。農家さんがいきなりドローンを操縦するのは現実的ではないので、オペレーションごと外注できる仕組みを作りたい。液肥だけでなく農薬の散布も組み合わせれば、ドローン会社側の稼働率も上がりますし、農家さんの負担も軽くなる。レントの営業網を活かして、こうした複合的なサービスとして現場に届けていきたいと考えています。
――レントと組むことで、どのような課題が解決されそうですか?
榎本氏:農業は季節変動が大きく、一年を通じて同じ機材を使うわけではありません。高額な設備を購入するのは農家さんにとって大きな負担ですが、必要な時期だけレンタルできれば導入のハードルはぐっと下がります。また液肥は、作る側だけでなく使う側にも困りごとや課題があるんです。散布の手段、運用のオペレーション、データ管理――そうした現場の課題をレントさんのネットワークで補えるのは心強いですね。
「地域で回す循環モデル構築」を全国に広げたい

――地域の農家からの反応はいかがですか?
榎本氏:久能地区でイチゴのハウス栽培試験を実施しています。出荷を止めてハウスをまるごと貸し切る形になるため費用がかかり、まだ少数にとどまっていますが、農家さんからは「液肥化によってチューブ施肥や自動灌水がしやすくなる」「手間が減って助かる」と高い評価をいただいています。
――「下水汚泥由来」という点に対して、心理的なハードルは感じていますか?
榎本氏:正直に言って、心理的なハードルを感じさせてしまう可能性は想定しています。「下水由来」という言葉だけを切り取ると、背景が伝わらないまま拒否反応が起きやすい。ただし、実用化の段階では農水省の肥料登録と安全性審査をクリアすることが前提ですし、科学的根拠に基づいた安全性と品質のデータを示していきます。
それ以上に大切なのは、背景にある循環型社会の文脈を丁寧に伝えることだと思っています。日本の化学肥料の原料はほぼ100%輸入に頼っており、地政学的リスクや資源枯渇の問題は現実のものです。たとえば大学と連携した体験イベントやセミナーを通じて消費者に背景から知ってもらうことで、受容につなげていきたいと考えています。

――このモデルを全国に広げていく構想はありますか?
徳村氏:はい。下水汚泥の処理コストや肥料の安定確保は、全国の自治体が共通して抱える課題です。まずは静岡での実証とモデル化を進め、再現可能な形に仕上げてから他の地域に広げていきたいですね。地産地消型の循環モデルとして確立できれば、地域ごとの農業と下水処理をつなぐ仕組みとして全国に展開できる可能性があります。
建設業から農業へ、新たなソリューションの形

──今後の協業に向けて、力を入れていきたい点をお聞かせ下さい。
榎本氏:日本の農業の未来を考える上で、こういった循環型肥料の活用が今後ますます重要になるという事実を、ぜひとも広めていきたいですね。
イチゴの比較試験で改めて感じたのは「持続可能かどうか」の重要性です。
従来の化学肥料で作ったイチゴと、液肥で作ったイチゴ。味はほぼ同じでも、前者は輸入原料に依存しているため、10年後、20年後に同じ生産方法が維持できる保証はありません。
一方、下水汚泥由来の液肥であれば、日本国内の資源だけでこの先ずっと作り続けることができます。
またサーキュラーエコノミーは、一つのテーマだけで完結するものではありません。下水汚泥から液肥を作るだけでなく、バイオガス発電による再生エネルギーの創出、食品残渣の活用、CO2クレジットの取引など、さまざまな要素が連携して初めて循環が回ります。
私たち一社では到底カバーしきれない領域なので、レントさんのような幅広いネットワークを持つパートナーとの連携が不可欠です。
山内氏:今後は実証データの蓄積から小型プラントのレンタルモデル化へ、そしてドローン会社との連携による液肥散布体制の構築、IoTやスマート農業機器のレンタルへと、段階的に取り組みを広げていきたいと考えています。
サーキュラーエコノミーの事業化、社会実装のプロセスで、課題やお困りの点がある企業や自治体がいらっしゃればぜひレントへご相談下さい。