建設業界で進む法改正とは?現場の変化と求められる対策を解説

日本の建設業界は、高齢化や人手不足、長時間労働といった課題が深刻化しています。こうした状況を改善し、誰もが働きやすい産業へと変えていくために、国は法改正を相次いで進めています。

本記事では、建設業界に関連する法改正の概要と、企業に求められる対策を整理しました。今後の取り組みの参考として、ご活用ください。

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働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律

建設業の働き方が変わる大きなきっかけとなったのは、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」、通称「働き方改革関連法」です。

これまで建設業では、残業時間にはっきりした上限がなく、長時間労働が当たり前のようになっていました。さらに、中小企業では割増賃金率が大企業よりも低く、厳しい制限がなかったのが実情です。今回の法改正を機に、長時間労働を減らし、働きやすい環境をつくることが求められています。

建設業にとって特に重要なのが、以下の2点です。

【改正の内容】

  1. 時間外労働の上限規制(施行日:2024年4月1日)
  2. 割増賃金率の引き上げ(施行日:2023年4月1日)

順に説明します。

改正後の概要 1:時間外労働の上限規制

まず挙げられるのは、これまではっきりとした制限が設けられていなかった時間外労働に、罰則付きの上限が設けられた点です。

「月45時間・年360時間まで」を原則とし、特別な事情がある場合でも以下のような厳しい上限を守らなければなりません。

出典:厚生労働省

項目 改正前 改正後
法定労働時間 1日8時間、1週に40時間まで
  • 1日8時間、1週に40時間まで
36協定を結んだ場合 月45時間、年間360時間まで時間外労働を課すことができる
※厚生労働大臣の告示のみ
  • 月45時間、年間360時間まで時間外労働を課すことができる※罰則規定あり
特別条項付き36協定を結んだ場合 労働時間に上限なし
  • 時間外労働は年720時間以内(休日労働を含まない)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)
  • 複数月の平均で80時間以内(休日労働を含む)
  • 月45時間に時間外労働を拡大できるのは年6ヵ月まで(1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)

※表は横にスクロールできます。

参考:厚生労働省

改正後の概要 2:割増賃金率の引き上げ

賃金に関する変更点では、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、中小企業でも大企業と同じく50%に引き上げられました。

出典:厚生労働省

この改正には、長時間労働を抑制すると同時に、働いた分が正当に評価される環境を整備する目的があります。また、労働時間を正確に把握するため、「タイムカードの使用」や「パソコンの使用時間の記録」など、客観的な方法による始業・終業時刻の記録がすべての事業者に義務付けられています。

求められる対策

建設業では、現場に直接出勤・退勤したり、複数の現場をかけ持ちしたりするケースが多くあります。こうした働き方に対応するには、勤怠管理システムの導入が効果的です。例えば、ICカードやGPSに対応したシステムを使えば、正確な労働時間データをリアルタイムで収集でき、長時間労働の防止や割増賃金の適正な支払いにつなげられます。

労働基準法に違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があるだけではなく、「企業名の公表」や「公共工事の受注への影響」といった企業の信用を損なう恐れがあります。さらに、大切な社員の過重労働による健康被害も無視できません。

まずは、自社の勤怠管理が法令の要件を満たしているかを確認し、労働時間を客観的に正しく記録・管理する仕組みを整えることから始めましょう。

建設業法、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律

続いて解説するのは、「建設業法、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」です。この法律は、建設業で働く人の待遇をよくし、仕事をスムーズに進めるための仕組みを整えるために改正されました。2024年6月に公布され、同年9月から2025年にかけて少しずつ実施されています。

建設業はインフラ整備や災害対応などで社会を支える重要な産業ですが、ほかの産業と比べて厳しい労働環境であるため、就業者数が減っているのが現状です。さらに、近年の資材の値上がりで、現場で働く人へ労務費が圧迫されるケースが増えています。こうした状況をふまえ、値上がり分を適切に価格に反映し、現場で働く人を守る仕組みづくりが重要です。

今回の改正のポイントは以下の3点です。

【改正の内容】

  1. 働く人の処遇の改善
  2. 資材価格の高騰によるしわ寄せを防ぐ
  3. 働き方改革と生産性アップ

順にみていきましょう。

改正後の概要 1:働く人の処遇の改善

1つ目の改正は、働く人の処遇をよりよくするためのものです。

参考:国土交通省

国土交通省は、建設業で働く技能者の適正な賃金水準の確保を目指し、職種ごとの労務費の基準である「標準労務費」を新たに作成しました。

この標準労務費にもとづき、次のようなルールが決まりました。

  • 注文者は不当に安い金額での見積もりを依頼できない
  • 受注者(建設業者)も、標準労務費よりはるかに安い金額での見積もりを出せない

もともとは注文者だけが対象だった「不当に安い契約の禁止」というルールが、今回の改正からは受注者にも適用されるように変更されています。

改正後の概要 2:資材価格の高騰によるしわ寄せを防ぐ

続いて、資材価格の高騰による負担を一方的に受注者(建設会社)がかぶるのを防ぐための改正です。

参考:国土交通省

資材の値上がりや供給不足などで、将来的に請負代金や工期に影響が出そうなとき、受注者(建設業者)は契約を結ぶ前に注文者へその情報を伝えることが義務化されました。また、契約書には「請負代金の変更方法」を明記することが法定記載事項として追加されています。さらに、受注者が価格変更の協議を求めた場合、注文者には誠実に応じる努力義務があります。

この改正によって、資材価格の変化によるコストのしわ寄せが、一方的に受注者だけに集中しないようになり、リスクを公正に分け合う仕組みがつくられました。

改正後の概要 3:働き方改革と生産性アップ

参考:国土交通省

最後に、働き方改革や生産性向上に関する変更点をまとめます。今回の改正で、注文者のみを対象としていた「短すぎる工期で契約してはいけない」ルールが受注者(建設業者)にも適用されるようになりました。これにより、発注する側も受ける側も適正な工期を守る責任を負うことになり、「工期に関する基準」に沿った契約が必要です。

また、生産性向上の取り組みとして、現場ではICT(デジタル技術)の活用が進んでいます。以下のようなツールを使えば、主任技術者や監理技術者が複数の現場をまとめて管理することが可能です。

  • ウェアラブルカメラ
  • 定点カメラ
  • クラウド上での図面共有 など

さらに、建設キャリアアップシステム(CCUS)を使って施工体制をデジタルで確認できる場合、施工体制台帳の提出が不要になり、事務作業の省力化や管理コストの削減につながります。あわせて、特定建設業許可や技術者の配置が必要になる金額の基準も引き上げられ、より柔軟な人員配置ができるようになった点も注目すべきポイントです。

求められる対策

この法改正に対応するには、企業として実務全体を見直す必要があります。まずは、コストの見える化です。国が推進する「標準見積書」を活用し、労務費・材料費・法定福利費などを明記して、適正な価格設定と価格競争の抑止につなげます。

次に、契約段階でのリスク共有では、資材の価格変動リスクを「おそれ情報」として事前に注文者へ伝えることが重要です。価格が変動したときの対応方法を契約書に明記し、誠実に協議できる体制を整えます。

工期設定をする際は、中央建設業審議会が定める「工期に関する基準」をふまえ、無理のないスケジュールを心がけ、現実的な範囲で設定しましょう。

また、生産性を上げる工夫も欠かせません。以下のようなデジタル技術を活用すれば、少ない人手でも効率よく工事を進められます。

  • 施工管理アプリで情報共有を効率化
  • BIM/CIMで手戻りを減らす など

国による取引状況の監視強化をおこなう「建設Gメン」によるチェックや「 駆け込みホットライン」の運用も始まっているため、社内の体制整備は早急に進める必要があります。

労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律

2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」は、誰もが安全に、安心して働き続けられる職場をつくることを目的とした改正です。一部はすでに施行されていますが、本格的な実施は2026年1月1日から段階的に進みます。

この改正では、次のようなことが強化されます。

【改正の内容】

  1. 個人事業者の安全対策を強化
  2. 小規模事業場にもメンタル対策を義務化
  3. 化学物質の安全管理を強化
  4. 機械による労災防止の促進
  5. 高齢者の安全対策を強化

順にみていきましょう。

改正後の概要 1:個人事業者の安全対策を強化

これまでの安全配慮義務の対象は基本的に「事業者が直接雇用する労働者」に限られていました。しかし、改正後は同じ現場で働くすべての人が対象になります。

なかでも注目されるのが、「個人事業者などへの安全対策の強化」です。現場全体を管理する元請(元方事業者)は、これまで以上に広い範囲の人に安全対策をおこなう責任を持つことになりました。対象になるのは、例えば以下のような人たちです。

  • 1人親方
  • 下請け企業の作業員
  • 資材搬入業者
  • 警備員 など

「保護具の使い方を説明する」、「危険な場所への立ち入りを禁止する」といった安全対策は、自社の従業員だけではなく、現場にいるすべての人に周知しなければなりません。このほかにも、現場の安全と健康を守るためのさまざまなルールが強化されていく予定です。

改正後の概要 2:小規模事業場にもメンタル対策を義務化

これまで対象外だった従業員50人未満の小さな事業所でも、ストレスチェックや高ストレス者への面接指導が義務化されます。

出典:厚生労働省

メンタル不調の早期発見と対応を進め、誰もが安心して働ける職場を目指します。

改正後の概要 3:化学物質の安全管理を強化

化学物質を渡す・提供する際の危険性・有害性情報の通知(SDS:安全データシート)がより厳しくなり、通知しなかった場合には罰則が設けられるようになりました。また、内容を変更した場合の再通知も義務化されます。

出典:厚生労働省

改正後の概要 4:機械による労災防止の促進

フォークリフトなどの特定機械に義務付けられている「特定自主検査」の実施基準が新たに定められました。登録検査業者はこの基準に沿って検査する必要があります。また、フォークリフト運転業務などに必要な技能講習修了証の不正交付防止策も強化されました。不正交付が発覚した場合、回収命令や欠格期間延長といった厳しい措置が取られます。

改正後の概要 5:高齢者の安全対策を強化

高年齢労働者の労働災害を防ぐため、事業者には高齢者の体に配慮した安全対策を講じる努力義務が課されました。作業環境の整備や管理方法の見直しなどにより、高齢の作業員も安心して働ける現場づくりを進めます。

求められる対策

今回の法改正により、元請業者(元方事業者)は「自社だけではなく、現場全体の安全を守る責任者」としての意識をこれまで以上に強く持つ必要があります。まずやるべきなのは、現場にかかわる全員を対象にした安全計画を立てることです。そのうえで、以下のような重要な情報を確実に伝えるための仕組みを整えます。

【現場全体に共有すべき安全情報】

  • 危険な場所の特定と共有
  • 作業手順
  • 使用すべき保護具の情報 など

下請事業者や1人親方も含め、誰もが同じ認識を持てる状態をつくることが重要です。周知には、「朝礼で伝える」「現場に掲示する」などに加え、デジタルツールの活用も有効です。例えば、現場状況をリアルタイムで共有できるアプリや、AIによる危険予測アラートシステムを導入すると、効率的で抜かりのない安全対策ができます。

法令に違反した場合は、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。1人親方などへの安全配慮を怠った場合も同様に罰則の対象となるため、現場全体で安全管理を徹底する姿勢が必要です。

その他の法律改正

働き方改革や安全衛生以外にも、建設業務に直結する法改正が不定期におこなわれています。ここでは、特に注意すべき2つの改正内容と対応ポイントについて解説します。

  1. 石綿障害予防規則
  2. 労働安全衛生規則等

それでは、順にみていきましょう。

1.石綿障害予防規則

建築物の解体・改修工事におけるアスベスト対策(石綿対策)は、年々ルールが厳しくなっています。現在は、原則としてすべての建築や工作物・鋼製船舶を解体・改修するとき、事前にアスベストが使われているかを調査することが義務付けられています。これは、アスベストによる健康被害から労働者を守るために重要な対策です。

区分 対象工作物  事前調査の資格
特定工作物(厚生労働大臣及び環境大臣が定める工作物)
  • 1.反応槽
  • 2.加熱炉
  • 3.ボイラー及び圧力容器
  • 4.焼却設備
  • 5.発電設備(太陽光発電設及び風力発電設備を除く。)
  • 6.配電設備
  • 7.変電設備
  • 8.送電設備(ケーブルを含む。)
  • 9.配管設備(建築物に設ける給水設備、排水設備等を除く。)
  • 10.貯蔵設備(穀物を貯蔵するための設備を除く。)
工作物石綿事前調査者のみ
  • 11.煙突(建築物に設ける排煙設備等の建築設備を除く。)
  • 12.トンネルの天井板
  • 13.プラットホームの上家
  • 14.遮音壁
  • 15.軽量盛土保護パネル
  • 16.鉄道の駅の地下構造部分の壁及び天井板
  • 17.観光用エレベーターの昇降路の囲い
下記のいずれか:

  • 工作物石綿事前調査者
  • 一般建築物石綿含有建材調査者
  • 特定建築物石綿含有建材調査者
  • 2023年9月までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者
特定工作物以外の工作物 上記(1〜17)以外の工作物

※表は横にスクロールできます。

出典:厚生労働省・環境省

なお、事前調査には、専門的な知識と資格が必要です。2023年10月からは、建築物などの調査には、「建築物石綿含有建材調査者」資格が必要になりました。

さらに、2026年1月からは、煙突や化学プラント設備など特定の工作物を調査する場合、「工作物石綿事前調査者」資格を持つ人でなければ実施できなくなります。

適用時期 事前調査に必要な資格
2026年1月から 対象工作物(1〜10)の事前調査を実施する人は、工作物石綿事前調査者講習を受講した者のみ
2023年10月から 対象工作物(11〜17、それ以外の工作物)の事前調査を実施する人は、以下のいずれかを受講した者

  • 工作物石綿事前調査者
  • 一般建築物石綿含有建材調査者
  • 特定建築物石綿含有建材調査者
  • 2023年9月までに日本アスベスト調査
  • 診断協会に登録された者

※表は横にスクロールできます。

資格を持たないまま調査した場合は、法令違反に該当します。対象となる事業者は、早めの資格取得と計画的な対応に取り組まなければなりません。

レントでも、工作物石綿事前調査者講習建築物石綿含有建材調査者講習を実施しています。お問い合わせ・お申し込みは、以下からご連絡ください。
【お問い合わせ先 レント教習センター TEL:054-265-2320

労働安全衛生規則等

現場の安全を守るためのルールは毎年のように更新されています。知らずに違反してしまうことがないよう、最新情報のチェックと社内対応のアップデートをおこないましょう。

関連する法律
※適用時期
概要 必要な対策
労働安全衛生規則
※2024年2月から
テールゲートリフターを使用した荷役作業には、特別教育の受講が義務化
労働安全衛生規則
※2023年10月から
最大積載量2t以上の貨物自動車の荷役作業には、昇降設備・保護帽の着用が義務化
  • 昇降設備・ヘルメット(墜落時保護用)を使用する
労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則
※2021年4月から
金属アーク溶接等作業には、溶接ヒューム対策が義務化
  • 換気装置を設置する
  • 呼吸用保護具を使用する
  • 特定化学物質作業主任者が、指揮・点検をするなど
労働安全衛生法
※2023年4月から
新たに食料品製造業、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業でも職長教育の実施が義務化
  • 対象者は職長・安全衛生責任者安全衛生教育を受講する

※表は横にスクロールできます。

自社の業務内容に応じた教育や設備の整備を計画的に進めることが、労働災害の防止や従業員の安心につながります。

トラックの昇降設備については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。実務対応を進める際の参考にすると効果的ですので、あわせてご一読ください。

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法改正をコスト増や負担と捉えるのではなく、働きやすい職場づくりや生産性の向上、人材の定着につなげるきっかけと捉える視点が重要です。最新の情報を取り入れ、自社に合った形で一歩ずつ取り組むことが、信頼される企業として長く選ばれ続けるための土台となります。

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